第241首 君は名人になれない

周防陣から難しい「む」を抜いた新。一旦眼鏡を外すと、畳に並ぶ札がぼやけて見える。

わからんが おそらくもっとだ もっと視界が不確かだ どれだけ心許ないやろう

周防の状態をそう推察する。新が小学生の時に太一と眼鏡無しで対戦した経験から、周防が得意な札を頻繁に移動すれば手を止められそうだ。そのうちの一枚は「ちは」。

控室で観戦する小石川は、新の右手中指の腫れに気付いている。

札極を厳しく攻められるのは 指先の強さがあってこそ

「ながらえば」「なげけとて」を新が二連取。それらは周防にとって、早く取る必要のない札。新は入念な素振りを繰り返す。

周防が口を開いた。

「…君は いるのか? …彼女とか」

赤面して狼狽えながらも、新が答える。

「いえ… いないんですけど 好きな子が後ろで頑張ってるんです」

背後のクイーン位を戦っているのは、若宮と千早。


千早はまだ体調が悪い。前の試合での配置に手を伸ばしたりと、反応が今一つ。幸いにして空札だったが、それが続くのがうっとおしい。新が鋭く「ちぎりきな」を取った。千早は新の動作を見ていて気付く。

送り札をして 丁寧に素振り 札の確認 空札は大事なんだ 空札の時にしか修正できない

千早は立ち上がって間を置く。軽く体操をして、暗記を再構築。「あらしふく」を渡って取った。新みたい、と太一は素晴らしい取りに感動。

ばかだな 千早ががんばれるなら なんだっていいじゃんか

そう思いながらも口元を締め、膝を強く掴む。

いたかった いたかったな あの席に

その表情の変化に見入る花野。


新が周防に訊く。

「周防さんは 競技かるたが好きですか?」

周防は新に目を向ける。

ねえ 兼子ちゃん 字がぼやける 人の顔がぼやける そがん世界やと 自分までぼやけていくったいな

でも、新から送られた「せ」札の力強さだけは分かる。

「…ねえ君は 名人になりたいの?」

周防は言葉を続ける。

「なれないよ 鍛錬を厭わなくて 真面目で素直で 環境にも恵まれてて 同じ畳の上で好きな子が戦ってて 健康で 僕の弟子を打ち負かすほど強くて なれないよ 君は名人になれない」

48.jpg

memo

五試合目中盤。クイーンと名人が数枚差で優勢なくらいで、まだ互角の戦い。新は周防が得意な一字決まりの札を取り、「せ」まで送るなど挑戦的。「ちは」は今のところ新陣にある。

その他に周防の事情もあり、気になる点が幾つか。新は腫れた指で送り札を差し出しており、これは至近距離だし周防の目にも止まっていそうだ。新の襷にある「ちはや」という文字は、見て取れているのか不明。「好きな子が後ろで」のコマで描かれているのは、周防の側から見える詩暢の顔と千早の背中。新は詩暢の動画にもよく登場していたし、新と太一が友人関係と知ったが、千早との繋がりまではどうだろう。どちらが「好きな子」かを分かっているのか怪しいところ。

周防から新への毒吐きは、第107首にもあった。その時は「きみはいつか名人になる、でもそれは次じゃない」からの、「きみを見ててもテンション上がらない」。今回は「名人になれない」と否定。似たような内容で、第122首で千早に対して「君 おもしろいね かわいくて 前向きでへこたれなくて 友達も彼氏もいて クイーンにもなりたいの? なれないよ」というのがある。二人とも跳ね除けられるか。

新から質問した際、周防が見た新の視線は下を向き、周防を見ていない。周防がイメージしたのは、新の視界でぼやける周防。これらの描写が意図するところは。

登場した札は「こいすちょう」「うかりける」「ながらえば」「なげげとて」「あしびきの」「あまつかぜ」「しらつゆに」「おおことの」「いまはただ」「ひとはいさ」「ちぎりきな」「うらみわび」「あらしふく」「やえむぐら」。そして、新から周防に送った「せをはやみ」。

第48巻はこの第241首までで区切り、競技かるたの紹介を兼ねたおまけ漫画「40枚かるた編」が収録されている。袖で紹介されている歌は「よのなかよ」。表紙は詩暢で、着物に描かれた菊について「王者の風格があるな」と作者様自身が評している。花言葉は「高尚」「高貴」などで、黄色に絞れば「破れた恋」となる。背景にも違う花が描かれており、自信は無いがクロッカスか。花言葉は「青春の喜び」「切望」。

share