第238首 全力を出さしてくれって言うてるだけや

祖父の幻影を見ていた新は我に返り、ソースカツ弁当を境内で食べ始める。


千早は若宮の手当てを終えて一息つくが、次の試合の準備に取り掛かる周囲の雑音で、聴覚に異常をきたす。原田先生の指示で控室で回復に努める。

近江神宮で 若宮詩暢相手に4試合も あらゆる瞬間で聴こう聴こうとしてきたんだ 神経が擦り切れるほどに

目にタオルを当て、耳を花野の手で塞いで貰っているが、今度は心臓の音が煩い。水中で揺れている感覚。宮内先生が千早の身体を冷やすため、胸元にペットボトルを置いたのだ。こめかみや首に冷却シートも貼られ、皆が千早の回復を見守る。


周防は従兄の正に髪を切って貰いながら、山城読手のことを考えていた。

天賦のものを持ちつつ修練を重ね 最盛期を過ぎてからは かるた界全体の発展に尽くした 専任読手としても読みを磨き続けて 歳をとってもできないことがふえても一流で かるたを愛し続けて

そして周防自身と照らし合わせる。

馬鹿みたいだ 今さらこんなこと思うなんて これから40年 かるたを取るにはどうしたらいい?

若宮の控室には、ファンからの差し入れとして、スノー丸グッズがたくさん届けられていた。インターネット上に溢れるコメントには、若宮の次戦に悲観的な意見も見られるが、選手は皆きっと五試合目まで来たら同じことを思っている筈。

全力を出さしてくれって言うてるだけや ええ加減にせえ 近江神宮!

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memo

前回の続きで、五試合目が始まる直前。千早と新の体力面は心配なまま。詩暢の足も完全に戻ってはいないだろうが、千早の手を煩わせ、新をも扱き使っているのだから、文句は言えまい。ただ、詩暢当人が彼等の休息時間を奪ったと認識出来ているのか。そう言えば新は襷持って行ったきりだなあ、としか思っていないので、しっぺ返しが来そうな予感。周防の気力は、元々無かったところから、最大級に覚醒か。

ええ加減にせえ近江神宮、って寧ろこっちが言いたい。アクシデントをぶっ込んで来るの、いい加減に止めて欲しい。最終戦こそ、余計な要素を入れず、純粋に力と力の勝負を見たい。でも、畳に並ばない「ちは」札の件など、回収されていない伏線が他にもまだ……

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