第237首 あなたとかるたをしてみたかった

第五試合が20分後に始まるという局面で、若宮は新に頼み事。

アホやな ありえんやろ この貴重な20分に 人のためになんかしたったことなんて うちだってあらへん そうや どこまで行っても 一人でおることが うちの強さなんや

山城読手が周防に声を掛けた。

「今日の試合は 執念を感じたわ」

周防は山城の最後の試合を覚えていたいからだと涙ながらに訴えつつ、心の内で独白。

あなたの声をずっと覚えているから あなたには最強の僕を覚えていてほしかった

山城が周防に手を差し出す。

「読手じゃなくて 40年までに戻って あなたとかるたをしてみたかった」

山城は周防を激励し、所用のため試合会場を後にする。


新は小さい頃から若宮と似ていた。頑張っても出来ないこと、頑張らなくても何故か人より出来ること。

ほやけと おとろしかった 知らん間に与えられたものは 知らん間に奪われるんでねえか?

近江神宮の長い階段を駆け上がり、袖から「ちはや」の襷を取り出し、若宮の襷とを改めて見る。

このたびは 幣も取りあえず 手向山 紅葉の錦 神のまにまに

その二つの襷を、追って来た太一が奪い取った。

「ダメだ 新がここでどっちかのことを願わなくても あの二人は自分で立てる 戦える 自分のことだろ今は なれねーぞ名人に 新の願いはなんなんだ 近江神宮で叶えたいことはなんなんだよ」

答えられずにいる新の意識が、階段から聞こえる砂利音に移る。新祖父と錯覚しそうになるが、見知らぬ老人と、由宇が現れた。


控室にいる若宮は、皆から腫物扱い。負けるかも、と思われてるのが我慢ならない。

やめて その空気 うちにまで 入ってくる やめて

突然、若宮が母に「祖母に家を出る」と言ったのは何故かと問う。若宮母は不器用な話しぶりながらも、どうにか説明する。

「びっくりしたんや…… 詩暢が『仕事を作りたいんや』って …… うちもなんかしいひとって……」

そこに至る迄の前置きが長過ぎて、若宮も話下手な母に吹き出す。

アホみたいや うちも ずっとカッコつけて

若宮は四試合目で足を痛めたと告白。ちょうどそこに、千早が現れた。

「詩暢ちゃん 多分だけど 足攣ってたよね 水だよ水! 水分不足だと 足攣るよ あとマグネシウム」

千早は若宮と賑やかに口喧嘩しながら足を治し始める。

「練習不足なんじゃないの 練習不足っていうか 運動不足!」

千早は日常から鍛えてあった。勉強しながら、アキレス腱を伸ばしたり、腹筋したり、爪先立ちで歩くのを意識したり。テレビのインタビューでも話していた。

わたしが 若宮さんの最高の強さを引き出して そのうえで勝ちますから

一方、新と会った由宇はマシンガントーク。

「新 あれ食べた? トッポと見せかけて トップ! すごくない? あれ ひっでー頑張ったんやよ 新 名人戦出るって思て」

由宇は更に弁当を押し付ける。

「だいたい 食べ物で験担ぎしてえたのは 私でねえのよ」

紙袋に入っていたのは、祖父といつも食べていた店のソースカツ丼と、祖父の写真。

「配信で言われてて 『名人位の呪縛』って 呪縛ってどういうことって思うたんやよ 新のじいちゃん 新を縛ってるってこと? ほんな思われてるって知られたら じいちゃんびっくりするよ」

新は自分の願いについて考える。

名人になること 綿谷始のようになること

かつて祖父が言ってくれたのだ。

いつか じいじゃん かるた取りたいな 大きなって強なった新と

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memo

第五試合前のインターバル。何故今ここでそれ? というのを詰め込み過ぎ。体力面で千早と新が有利だったのが、二人とも消耗したのが不安要素。キョコタンからの励ましがあったとはいえ、周防の気力面も心配。

賽銭箱の前に辿り着いた新が「ちはや」襷を取り出すのに合わせ、「このたびは」の歌を被せて来た。歌に登場する「幣(ぬさ)」は、神様に捧げる麻や木綿や紙など供え物のこと。歌中では、何も持ち合わせていないからと、「手向山の紅葉」の「錦」を捧げている。新にとって、千早襷は紅葉の錦。作中で度々描かれ来た紅葉は、恋心を表すとされている。それを奉納とは、つまり手放す……?

しかし、端からでは、千早と詩暢のどちらを応援しようか、と迷っているようにも見えるわけで、太一が二つの襷を奪い取る。千早は第四試合を襷無しで終えたが、第一首冒頭で描写されている通り、第五試合では襷を着けている。この時点で太一の手元にある襷が、どういう形で千早に返されるのか。千早に渡すのは新なのか太一なのか、何か言葉を掛けるのか。あるいは、千早がしれっと別の襷を身に着けていたりとか。

由宇が家を出発したのは、第三試合を完全に見届けてから。一試合の所要時間は、一時間半程度。前後の休憩時間が20分。試合が終わってソースカツ丼屋へ直行して弁当を買い、電車に乗って、第五試合直前に近江神宮に到着。Yahoo! 路線情報サイトで芦原温泉駅と大津京駅を入力検索すると、乗り換え時間を含めて最短で1時間59分と出るが、地元駅までと最寄り駅から近江神宮境内までの時間は入っていない。ましてや由宇は弁当まで買っている。パッケージ済みではなく、注文後に詰めて貰うタイプと見受ける。電車の本数も限られ、ちょうど良く来るわけでもない。更には、長い階段でじいさんを拾って来た。電車代は往復で9,000円。介護で他所宅を訪問しており、その状況下で高校生が万札を持ち歩いているものなのか、電子マネーにそんな額をチャージしてあったのか。一旦帰宅したか、ATMに寄ったのか。いろいろ苦しい。

階段で現れた老人は、和服姿で描かれたのち、由宇と共に現れるコマではコート姿になっている。新に祖父のことを考えさせる切っ掛け作りとはいえ、演出に錯覚を用いる場面が多いなという印象。あと、由宇は新に何故境内にいるのかと笑って訊ねているが、驚いた様子が無い。笑顔を引っ込めて叱咤激励しているあたり、道中で第四試合の結果は確認済みかと思うが。

そうそう、何年か前に発売された「ちはやふるTOPPO」は、私も当時買いました。

ちはやふるTOPPO

第47巻終了。表紙の周防と共に描かれたのは、作中で兼子ちゃんが育てていたミニトマト。植物で花も咲き、その花言葉は「完成美」「感謝」。袖の歌は一つ前の第236首で触れられた「つくばねの」。四コマ漫画は、ダディベアとスノー丸の担当者達の苦悩。

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