第234首 ずっといた

千早の視線は太一に釘付け。

太一 太一が 太一が来た

挑戦者決定戦の後、大江が太一にこっそり問いかけた言葉を、千早は聞いていた。

「真島くんは いまでも千早ちゃんを好きですか……?」
「もうよくわからん… でも だんだん薄れていくんじゃないかって思うよ」

千早は一人慌てる。

あれっ なんか変なの思い出した そうじゃなくてそうじゃなくて そうじゃなくて…… そうじゃなくて

畳に視線を落とし、次に思い浮かべたのは、試合前に見た幻影。太一が近江神宮が近江神宮で参拝している姿。


新の表情は固い。

太一が見てる 運命がちょっこしちがえば この席にいたのは 太一やったんじゃないか?

「こころにも」が読まれ、周防が取る。「こころあ」がまだ出ていない段階で、周囲は目を見張る。周防は詠み人である三条院が、目を患って退位を迫られたことに自らを重ねる。

視力を失っても 重い留めたい景色があるとすれば キョコタンのいるこの景色――…

「わたのはら・や」は新が強引に取る。

太一 ちょっこし運命が違っても それでもこの席に座るのはおれや ぶっ潰す

険しい表情の新を見て、周防が口角を上げる。


クイーン戦は、若宮に隙が無い。取った「わすれじの」「なげきつつ」は、古には同じ襖に貼られていた歌。次の「あまのはら」は千早が取り、送り札は「あまつかぜ」。若宮が札の神様と対話する中「あまつかぜ」がすぐ読まれ、僅差で若宮が取るが。

ゾッとした 声を聴いていたのに 呼ばれて取りにいったのに 差がほぼない そしてそれが ちゃんと見えてる

千早は首の体操をしてリラックス。「ちぎりおきし」を取り、「すみのえの」を若宮に送る。更に札を移動し、「せをはやみ」を畳の中央に据えた。東日本予選の理音戦でも、S音について同じ作戦を用いている。

若宮は「せ」札を注視。

この世界を 祝ってるん? 呪ってるん? かるたやるうちらを 好きでいるん? 好かんでいるん?

千早の認識では、「せ」は太一の得意札。実際の練習では千早の方が取るので、太一はこう言っていた。

単なる「好きな札」

するぞ3勝、という太一の言葉を思い返しながら考える。

太一が来た でもそうじゃない いた ずっといた

「す」を千早が取る。若宮は一歩も動けなかった。千早が「せ」を送り、すぐに読まれた「せ」は若宮の取り。

あんたは うちの札やん

この攻防に見入る太一の目に涙が浮かぶ。

千早が 戦ってる 競技線の中で自由に 憧れていた 絶望していた相手と 最高の試合をしてる

そこで立ち上がった若宮の足に異変が。

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memo

それぞれに思い入れがある「せをはやみ」。そしてやっと「ずっといた」と気付き、一方も感慨深げに見守る様子。まだぎこちない距離感の二人は、どう融解して行くのだろう。

冒頭の回想、かなちゃんと太一の会話場面は第207首。耳の良い千早には、やはり聞こえていた。そうじゃなくて連呼の千早が視線を落とした先にある札は、「わびぬれば」「ゆうされば」「せをはやみ」など。背景に描かれているのは、コスモスかヒナギクか、とにかく可愛らしく温かみのある表現。第22巻表紙で描かれたコスモスとは少し風合いが違うので、ヒナギクだとしたら花言葉は「平和」「希望」など。しかし、そこでギャグ顔に流した挙句、「変なの」扱い?

一転、次のコマで現れる新は、暗色背景に曼殊沙華。以前も登場したが、花言葉の一つは「情熱」。周防の不気味な笑みは、第107首の「きみを見ててもテンション上がらない」からの、求めていた鬼化がやっと来た感。

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