第229首 自分の人生が始まった気がするの

周防の払い手に勢いが出て来た。

読手さんがぼくを 天才にしてくれる

千早は若宮の得意とする敵陣左下段から「ほととぎす」を抜いた。札を拾う千早を、周防が見る。

きみもやっぱり "こっち側"か

新も千早を見て、初めてかるたを取った小学生の時を回想。

あのとき… あのとき引き込んだあの子は クイーンを凌駕し 名人と並ぶ 天才…

JR大津京駅から京都へ向かう電車で、太一は千歳に会場に戻るよう説得するが拒否される。

「じゃあ 真島くんがそばにいなさいよ! なんで真島くんも帰ろうとしてんのよ 人に押しつけて」

人に押しつけて、の言葉で太一は気付く。太一は新に「勝ってほしい」とメールをしていた。

だって おれの役割じゃない もう…… 出番がない 新 新なら大丈夫だと――…

新は苦戦し続けている。名人が得意な「ひさ」が上段にあったが、下段の「ひとは」と入れ替えた。それは祖父譲りの「いやらしいかるた」。しかし、「ひさ」を一音で取られてしまう。更には、周防が札を移動させる前の位置に手を伸ばして空振り。勢いで倒れ込む。大丈夫? と声を掛けられ、見上げるが。

これが「名人」

新の脳裏で様々な言葉が思い出される。自らの「名人になるんや」、太一からの「かるたを好きな人間に勝って欲しい」、新が千早に言った「自分のかるたをしろ」など。

おれのかるたって? おれのかるたって?

畳に視線を落とす新に対し、千早は善戦中。


太一と千歳は京都駅に到着。太一が千早に振られた済みと聞いた千歳は、時間を無駄にしたと呆れ顔。太一は千早から、誕生日やクリスマスのプレゼントにと、千歳の写真集やカレンダーを貰っていた。

「無駄でしたか? 千早のそういう気持ちは 無駄でしたか?」

千歳は諭すように話し始める。

「……『足りない』と思ってからやっと 自分の人生が始まった気がするの 千早がくれてた崇拝みたいなのがなくなって 足りなくなって 私でいうと じゃあ ここしかないんだって 芸の道よ 真島くんも千早がくれないぶんをさ 足りないって思うぶんをさ じゃあどうしようって足掻いていくしかないよね」

新幹線に乗り込んだ千歳を見送り、太一はスマホで試合を確認。82枚目まで読まれ、クイーン戦は3-3。千早が「せ」を送った。空札はまだ多いが、一字で取れるのは「せ」だけ。2-2の局面から「をぐ」が詠まれ、千早が自陣から取った。太一は画面に見入る。

千早は天才じゃない 若宮詩暢に出会った日から 自分で見つけた大きな夢 1日も心から消さない炎 届きたくて 届きたくて 手に入れた一枚一枚への強さを 「天からもらった」なんて だれも言わない

畳に残るのは、若宮陣が「せ」と「たご」、千早陣に「たれ」。若宮は崇徳院の「せ」を送られてから、嫌な感覚に襲われていた。大江は千早との会話を考えている。

「たご」が助けてくれて かなちゃんの歌なの
「つく」は意外と筑波くんじゃなくて 筑波くんは「あ」の札だったり
太一は「たち」と「たれ」とか 「たれ」は「昔の友達はもういない」って歌だけど 太一が高校で私を見つけてくれたときの歌だから 太一の歌

そして読まれた「たれ」を、千早自陣で抑え、千早が第三試合の勝利を決めた。

全部 全部 私以外の人がくれた 全部 全部 私以外の人が くれたの

涙で喜ぶ仲間達。太一も駅のホームで拳を握る。

memo

千早の第三試合終了。九頭竜の読みのポイント、「おぐらやま」がここぞという場面で出た。そして初勝利の札に、太一の思い出を絡めて来た。が、太一は駅のホームからこの後どうするの? という状況で次回以降に持ち越し。

千歳の千早に対する蟠りは、話の上ではこれで解消か。太一に語る時は、お姉さん的なすっきり良い表情。一方、散々匂わせつつ、やっと問題提起された「新のかるた」。千早について、新は天才とみている。周防は読手との相性で、と条件付き。太一は「天才じゃない」と否定。この辺りにも、新の課題が潜んでいるのだろう。

作中で詠まれたのは「なにしおわば」「ほととぎす」「おもいわび」「ひさかたの」「よをこめて」「わすらるる」「なつのよは」「ふくからに」「あしびきの」「おぐらやま」「たれをかも」。

第45巻終了。おまけ4コマは、受験生駒野と両親のやり取りの一話だけ。折り返しで紹介されている歌は「おぐらやま」。表紙に描かれているのは極楽鳥花。千早の集中力と努力を表現したくて選んだ美しい花、とは作者様のコメントであるが、花言葉は「気取った恋」「恋する伊達者」などで恋の関わりも匂わせているような。

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