第223首 あの子の魂は攻めがるた

「このたびは」を詠んだ菅原道真、「せをはやみ」の崇徳院は、平将門と並んで日本三大怨霊と呼ばれるが。

べつに怨霊とか思ってへん ずっと遊んできたおっちゃんたちや 敵陣で並んでもかまへん でも 千早 あんたはわざとやったな?

若宮からの厳しい視線で、千早は水底に呑まれて行く。そんな千早の横を、歌人たちが素通り。

あんた なんや知らんけど わざといじわるすんのか 嫌いや

渡会は深刻な表情。

試合を有利に運ぶ奇策のアイデアを 使うタイミングはいまじゃなかった

伊勢先生は一試合目で6枚も差があったのに、早く勝負を決めにかかり、譲らなかった若宮に驚いていた。千早が特別な存在になり得ると。しかし、「この」で若宮があっさり譲ってしまい。

また戻った 札とだけ語り合う 一人でのかるたに

原田先生はロビーで観戦。膝の痛みで畳に座れず、自身の一年の戦績は芳しくない。千早が白波会に顔を出さず、渡会や猪熊と練習していたのにも落胆している。

渡会さんも いまの名人もクイーンも ここしばらくのトップはみんな ”全方位に強いかるた”…… 新しいスタイルのかるたも出てきてる 攻めがるたは時代遅れなんかなぁ……

新のかるたのバランスの良さには意味がある。

流れが悪いのは「運」がないからやない 札の配列と送り札の順番がおかしくて 自陣に取りやすい札が残ってるからや
疲れのあるなしも「体力」のあるなしやない 正しい構えがでてるかどうかや
「感じ」がいいとか悪いとかも 本当は耳のよさやない 暗記や 目でしっかりと 暗記を入れてるかどうか―― 「目」

周防が新に送られた「なにし」を手に取り、かつて「きみを見ててもテンション上がらない」と言った意図を話す。太一と戦った時のような新との試合を、周防は期待していた。

「冷静な 誰かの皮をかぶったような かるただったからさ」

「きりぎりす」で周防が素早い反応を見せたが、空振りとなる。その様子に兼子が見入る。

新は周防にこうも言われた。

きみはいつか名人になる でもそれは次じゃない

しかし、戦いは互角だ。そんなことを言えるのか?

おれのかるたが通用するのに じいちゃんのかるたが――

千早は「せ」を逃したショックを引きずり、顔を強張らせたまま。若宮からの送り札でやりにくい形。渡会の見立てでは、

「あんたは自陣守ってなさいって 自陣で手いっぱいになりなさいって 言われてるような――」

若宮が自陣の「あきのたの」を簡単に取り、原田も苛つく。

千早ちゃん 攻めろ 敵陣を攻めることでしか 自分の陣形は作れないんだ 下を向くなっ

その千早が下を向いたまま、不気味に笑う。

自陣左下段にポイントになる札をわざと集めたのに 私の意識は「あのへん大事」だった 一枚一枚の札とつながってなかった

千早には「読まれる札が浮いてみえる」。周防は「読まれる札が消えて見える」。そして「読まれる札に呼ばれる」。千早は畳に一礼。

あきらめない もう一度 つながらせてください

「ももしきや」で千早の取りかと思えば、若宮も札を拾おうと立ち上がり、二人とも驚く。若宮が引きつりつつも譲る。

原田が気付く。

千早ちゃんは 自分でたくさんの武器を取りにいってるじゃないか どんなプレイスタイルを手に入れても あの子の魂は 攻めがるたじゃないか

memo

二試合目、千早のかるたが本来の形に戻るまで。一方、新のかるたは端から見てもバランスが良く、「おれのかるた」=「じいじゃんのかるた」。周防が見た第205首での対太一戦の新は鬼の形相で描かれているが、それを見たいと言っているのだろうか。

周防の「きみはいつか名人になる でもそれは次じゃない」「きみを見ててもテンション上がらない」は第107首。

登場した札は冒頭の「このたびは」「せをはやみ」、詠まれたのは「むらさめの」「あしびきの」「かぜをいたみ」「はなさそう」「きりぎりす」「なにわがた」「あまつかぜ」「ひともをし」「あきのたの」「ももしきや」。