第222首 あの子いじわるね

千早が試合序盤から定位置を動かし、若宮は千早陣左側に目を落とす。

札(みんな)がざわめいとる 居心地が悪そうにしとる なんのつもりや 千早

若宮の焦点はいつも競技線中心なので、千早としては自陣左下段に行くよう意図したもの。しかし、若宮は次に読まれた「なげけとて」を、千早陣右から正確に取る。

みんな 大丈夫や すぐいつも通りになおしますし あの落ち着かん並びは すぐ崩しますんで

「みかのはら」を千早が敵陣左から取る。千早からの送り札は「よのなかよ」だが、普通は畳中央に置くものを、敵左上段にある「おとにきく」の斜め上に差し出す。

あえて祐子内親王家紀伊の「おと」に寄せて送った? 浮気者で知られる藤原俊忠の誘いの歌に いたずらはよしてとピシャリと返す歌…

大江はそう解釈し、若宮の鬼の形相を見て戦慄。

次は千早得意の「ふくからに」で、千早が連続で取る。若宮はその拍子に着物の袖で、自陣左の札を乱してしまう。札の神様たちが眉間に皺を寄せている。

うちの百人の小さな神様

若宮が小さい頃に買って貰った百人一首の本で、分からない言葉があった。祖母に説明を聞き、縁ある野宮神社にも行った。

「斎院は天皇の代替わりごとに置かれる… なんちゅうか 神様の依り代や 未婚の内親王から選ばれて たいていは斎院から降りても見込んで過ごした言われとるなあ」

その式子内親王の「たまのおよ」が読まれたのに、若宮はまたしても千早に取られる。千早は三連取。

新 私もふんばるよ 私が詩暢ちゃんを一番理解する者になる

選手控室では千早両親や大江が見守っていた。せっかくの大一番なのに、クイーンの着物に比べて地味だと零す千早母に、大江は千早が以前話した言葉を伝える。

お母さんが買ってくれた あの着物でないと 浦安の間で戦うときは あの着物でないといやだ

「なつのよは」は若宮が取ったが、袖を踏んで倒れ込み、畳の札を散らかしてしまう。

詩暢ちゃんは大振袖だから いつもよりずっと札が乱れる 立ち歩きの回数が増えて 疲れが溜まっていく

千早はそう観察しながら、また札を移動。「このたびは」を手に取り、「せをはやみ」の右に置いた。大江は驚愕。

日本三大怨霊のうち お二人を並べた~~~~

若宮の目にも、札の神様たちが困惑しているのが見える。しかし、若宮は落ち着き払い、「いまこんと」「おもいわび」を取り、次の「このたびは」はセイムと思われたが若宮が千早に譲る。その次の「せをはやみ」は、千早陣から若宮が。

ああよかった 菅家さまと崇徳院さまが 同じ山に重なることがなくて… さすがやあんた

若宮からの送り札は「よのなかよ」。

よかった ああ俊成公も送り返してくれるの? よかった

札の神様たちが千早に冷たい視線を送っている。

それに比べて あの子 いじわるね

若宮はほくそ笑む。

バカやな 千早 うちが嫌がる札の置き方は 札に嫌われる置き方やのに――

memo

第二試合。詩暢の気を散らす方向に意識が行って、よろしくと挨拶までした札の神様の関係性を無視することになった千早。三連取するなど期待を持たせておいて、暗雲が漂い始める。かなちゃんが千早母に伝えた言葉は、高校三年全国大会個人戦の第166首から。

登場した札は「なげけとて」「みかのはら」「よのなかよ」「おとにきく」「ふくからに」「たまのおよ」「なつのよは」「このたびは」「せをはやみ」「いまこんと」「おもいわび」。