第211首 帰りたくても帰れない理由

長崎県大村市にある周防の実家は、立派な屋敷で野菜直売所も併設している。太一は周防目当てに初めて訪れたファンとして、賑やかな家族にもてなされる。大家族で皆、周防に好意的。人が多く、温かで、包容力のある家。

羽田から長崎まで飛行機で2時間 うちからでも全部で4時間かからず来た 帰りたくても帰れない理由を知りたくてここまで来たけど 帰れない理由なんてどこにある?

兼子は一人で畑仕事をしていた。サングラス姿が周防と重なる。

「あぁこれは 網膜の病気でねぇ つけたままでごめんねぇ 視野が欠けてしまうけん 和菓子屋のパートも とうとう辞めてしもうて」

涙ながらに周防のことを案じる兼子。太一は動けなかった。


若宮は動画の件で、在校中は自粛するよう求められる。ブス、新に勝てない、といったネットでの悪評にも落ち込む。祖母は「若く美しく世界一強い」と言ってくれたのに、と母に愚痴を吐く。

こんな詩暢見たことない ずっとこの子を支えとったんや あの言葉が

母はそう知って、悩み始める。

世間知らずなこの子をどうしたらいい 世間知らずな私が

大江は志望を経済学部に変えたことを太一に話していた。

「ビジネスの方法論を身につけることが 呉服の大江における私の役割なんじゃないかって」

太一が「役割」について考えていると、自宅のテレビ画面に千早が映し出された。猪熊の夫がテレビのプロデューサーをしている縁で、千早は取材を受けていたのだ。モデルでタレントの姉のことも紹介される。インタビューで、千早は強気の発言。動画では若宮が新に連敗しているが、千早は高校選手権で新に勝っていることを持ち出す。

「私 若宮さんに負ける気しないんですよね」

千早はSNSも開設。とはいえ、ツイッターは挨拶とテレビ出演情報だけ、インスタグラムはダディグッズばかり。若宮だってSNSで痛い目に遭っているのに、と千早母に注意されるが。

「目立つのは一人だからだよ 私は詩暢ちゃんを一人にしない 決めたの」

千早はそれが自分の「役割」と考えている。


結川と小石川が若宮邸へ向かうと、新もちょうど到着したところだった。

「練習や 試合や新!! へそで茶沸かすとはこのことや 見とれ千早 この間から生意気やあいつ」

若宮はテレビで千早を見てから、怒り心頭である。

「うちは…どこか…新と試合してる途中で あんたになら まあ負けてもええかもって思っとったのかもしれん 新にだけは負け慣れてしもうて…… …… 負け慣れる? 冗談やない うちはクイーンや」

動画を撮る結川達に、若宮母も協力する。

「学校のほうとかどうとでもなります きれいに撮ってやってください」

若宮母は娘に友人が訪ねて来たことにも感動していた。

あんたがブスやないことは お母さん 一番知っとるんや

memo

ついに周防の秘密を知る太一。千早からは再び拘りの「一人にしない」発言が出た。そして、若宮の闘争心に火が点いた。