第210首 仕事を作りたいんや

太一は周防と、予備校帰りに寄り道。周防が問い掛ける。

「きみは『ひとかど』って言葉 知ってるかい」

「ひときわ優れている」という意味で、漢字で「一廉」と書く。周防は兼子の話をする。

「親がさ 本当は『廉子』って名づけるつもりだったのに 出生届の書類にまちがって『兼子』って書いちゃってさ だからずっと 自分は半端な人間で ひとかどの人間になんてなれなかったって笑っててさ」

周防は更に言う。

「きみが名人戦で勝ったら―… 名人になるほどの弟子を育てたら ひとかどの人間になれたのかな」

そう呟きつつ、太一は弟子でもないし、誰が来ても名人戦で勝つ、とも言う。


若宮は福井の新宅に押し掛けて練習していたが、母に呼び戻される。学校で動画のことが問題になっているらしい。

「詩暢 お母さんとかおばあちゃんに迷惑かかるようなこと 許さへんからね」

スノー丸の版権元会社では、活動費支援のためには知名度を求めている。動画配信はその一環だった。若宮自身が行く先々でカメラを回し、小石川と結川が映像を編集するという役回り。新はカメラを借り、若宮に喋らせる。万葉の歌人なのに平安装束を着ている持統天皇、天智天皇が詠んだ歌についての疑惑、などなど。

「百人一首にかかわる人がいろんな思惑で より多くの人に伝わるようにしてきたんや 競技かるたやってそうや 千年の時を超えて 私ら好き勝手して それを神様たちはきっとおもしろいなあと思ってながめとるんやろうなぁって……」

ネットでは、若宮の悪口のみならず、高校名や祖母の名前に住所まで晒されるようになっていた。そうしてまで有名になりたいのか、と級友に詰め寄られた若宮は、書道やピアノの仕事は存在しても、かるたは違うと訴える。

「うちは有名になりたいんやない 仕事を作りたいんや」

ちょうど高校に到着した若宮母が、その様子を目撃する。

戦ってる 私の娘が

太一が名人戦挑戦者決定戦で勝利した場合の願いは、周防を長崎に帰すことだった。周防の話から従兄のフェイスブックを見付けた太一は、長崎の周防実家を訪れる。


memo

SNSにアンチスレッドなど、ネット時代ならではの展開。第194首で太一が周防に言った台詞は「ひとつだけ必ず勝つから」なので、挑戦者になれなくても一勝すれば、ではある。受験生なのに遠路遥々長崎に乗り込む太一だが、かるたを休んでいるので成績は上がっているとのこと。余裕だなw

新と詩暢の練習で読まれているのは「さびしさに」「これやこの」「ゆらのとを」「なげきつつ」。