第209首 一番理解する者になる

渡会と猪熊から連日の特訓を受ける千早。札の位置によっての手を出す角度、一字目で囲う準備など。渡会によると、以前は名人戦に女性も出場可能だったらしい。

「クイーン位をまず2連勝して取るでしょ? そのあと名人戦で3連勝すれば 不戦敗2でも名人になれるでしょー?」

千早は一人で練習を続けながら考える。

詩暢ちゃんは相手を見ない 見てほしければ 崩したければ 厳しく攻めるべきは左下段 そして守るべきは自陣左下段 どうやったらそれがかなう?

かるた界隈では若宮のネット動画の話題で持ち切り。若宮が新の自宅に押し掛けて対戦して三連敗、更には家に泊まり込んで掃除する姿まで映っている。動画の中で、新が試合で取った25枚の札を、若宮に渡す。

「じいちゃんによく言われとったんや 『身に染みて悔しいうちに 取られた札だけでも もう一回見返して反省しろ』て」

その言葉を受け、反省会を始める若宮。一枚ずつ何故取られたかを振り返り、最後に零す。

「札がみんな なんとなく新を好きで イラッとする……」

千早は部室に駆け込み、若宮の配列通りに読み札を並べてみる。読み札には絵が付いているので、女性だけ、男性だけなどと、固まって分かれているのがはっきり見て取れる。

左中段に小式部内侍と右大将道綱母と持統天皇 その下に和泉式部 清少納言 式子内親王がいて ここは詩暢ちゃんの大事なお客さんの部屋
右上段はごっつい濃度のおじさんエリアで壁みたい その下は周防内侍 小野小町 参議雅経 右近とかがいる 華やかな遊び場で
右下段端から冗談みたいに並んだ「む・す・め・ふ・さ」は きっと寝室
右下段内側はお坊さんばっかり並べて 客間かな?
左上段がたぶん玄関

若宮が札を前に頭を下げる姿を思い浮べ、千早も礼をする。

こんにちは ご挨拶が遅れました みなさんが詩暢ちゃんのお友達であり 詩暢ちゃんのおうちだったんですね

渡会は千早に話していた。

おかしいわね かるたはずっと友達だったのに いまではかるたが子供みたい 遠くなるの たぶんかるたのほうが長生きだから
思っちゃうのよ 詩暢ちゃんもきっといつか同じような気持ちになるって 綾瀬さん 詩暢ちゃんに勝って 泣いて笑って同時代をずっと戦えるような ほんとの友達になって

千早は決意。

私が詩暢ちゃんを一番理解する者になる

若宮はまた新の家に押し掛ける。

勝てん相手を温存して挑まんで なにがクイーンや

名人・クイーン戦までは、あと30日。


memo

詩暢が畳の上で見ている世界。絵札=読み札のことは、桜沢先生が第128首でのクイーン戦の最中にも独白。詩暢の配列に触れられたのが前話で、それ以前の詩暢試合では札の並びは明確には描かれていない。今回それら全てが纏まり、世界観が露わになった。

第172首の高校選手権個人戦決勝にて、新は「うか」と「うら」の取り方でその歌の作者を思い浮べ、詩暢の戦略を読んでいた。新も詩暢と同じ世界が見えている? だから常に勝てている?

渡会の話を受けて、いずれ千早は新に挑戦状を突きつけることになりそうだ。第12首で千早と新が畳で向き合う光景を太一が想像しており、私はそれが別場面(第162首)のために描かれたのだと思っていたが、もしかすると「名人対クイーン戦」を示唆していたのだろうか。思えば、現トップの周防と詩暢の両者が戦ったことが無く、それについて何度か触れられて来たのも伏線か。

しかし、新はぶれないなw 詩暢に何度押し掛けられても、パジャマ姿の詩暢の部屋に行っても、詩暢に「夜這いか?」と突っ込まれても、全然表情が変わらない。ところで、由宇はどうした? そろそろイライラが爆発する頃では。


詩暢の配列での曰く付きの札について。「ちは」「しの」「わたや」が右下段、「たご」「たち」は左上段、「せ」は左下段にある。

新に取られた札は「よをこめて」「めぐりあいて」「あらざらん(いまひとたひ~)」「たちわかれ(まつとし~)」「おおけなく(わかたつ~」「ちぎりおきし(~いぬめり)」「せをはやみ(われ~)」が描かれている。「うか」と「うら」はどちらを取られたのか不明。このうち左上段が「ちぎりお」「たち」、下段に「あらざ」「よを」「せ」「うか」「うら」と、あくまで詩暢一人反省会で触れられた札のみだが、左ばかりである。守るべき場所だったから反省材料として取り上げたのか、新が取った札の比率が左に集中していたのか。尚、「おおけ」のみ右下段。


部室に駆け込んだ千早が開けた箱で、上にあった札は「かぜをいたみ」と「いにしえの」。配列表通りに並べた後、特別室である左下段がフォーカスされ、清少納言の「よをこめて」が大きく描かれている。そして、畳で一礼する場面で紅葉乱舞。

この「よをこめて」は第124首で紹介されている通り、クイーン戦の陣決めに使用する札だ。が、その時に詩暢が引いたのは「め」の方で、一戦目は勝利しており、引けなかったからといってショックを受けるわけではないらしい。

もう一つ、千早が部活離脱中の第144首にて、深作先生がこの歌を好きだと話し始めたのを、千早がまるで遮るような形になった場面があった。「逢いに来ることは許されない」というような内容の札だが、千早は改めて何と思うか。とりあえず対詩暢では、ショベルカーでごりごり行くんでしょうけどw